• ホーム
  • 5G
  • 次世代モバイル通信"5G"とは?【第4回】 ユースケース検証からネットワーク構築へ、急ピッチで準備が進むサービス前夜の5G

次世代モバイル通信"5G"とは?【第4回】 ユースケース検証からネットワーク構築へ、急ピッチで準備が進むサービス前夜の5G

2018年10月、世界初の5Gサービスが米国で始まりました。一番乗りを果たしたのは米ベライゾン。5G技術を活用した一般家庭向けのインターネットサービス「Verizon 5G Home」を開発し、ヒューストン、インディアナポリス、ロサンゼルス、サクラメントの4カ所で商用サービスの提供を開始しました。

Verizon 5G Homeは、既存の有線ネットワークにミリ波周波数帯を用いる高速無線ネットワークを組み合わせて、無線アクセス回線による高速インターネット環境を家庭に提供するサービスです。最大速度940Mビット/秒という高速性を売り物にしています。

もっとも、5Gという名称を使っていますが、スマートフォンやタブレット端末といったモバイル機器向けのサービスではありません。Homeという言葉が示すようにあくまでも家庭向けのインターネットサービスで、家庭内の機器は家庭に設置する専用宅内機器を経由してインターネットに接続します。スマートフォン向けのサービスは2019年からになりそうです。

無線によるインターネットサービスであることを紹介する「Verizon 5G Home」のイメージ画像(出所:ベライゾン)

Verizon 5G Homeで用いられている技術は、国際電気通信連合 無線通信部門(ITU-R: ITU Radiocommunication Sector)や3GPPといった標準化団体が作成した国際標準に準拠するものではありません。ベライゾンがスウェーデンのエリクソンをはじめとする複数の5G機器ベンダーと共同で2016年6月に制定した独自仕様「V5GTF(Verizon 5G Technology Forum)」に基づいています。V5GTFは国際標準ではありませんし、実現した用途は「高速無線アクセス」という限定されたものです。それでも複数メーカーの機器を組み合わせて5G技術による商用サービスを実現したことで、5Gの実用化は、その開始時期を競う段階から、どのようなサービスに仕立てるのかを競う段階に入りつつあると言えるでしょう。

新しい無線技術に基づく国際標準の初期バージョンが完成

5Gの国際標準は、業界団体の3GPPの場で精力的な議論と仕様策定が進められ、その成果物を国際標準化機関であるITU-Rが承認するというプロセスで制定されています。5Gで実現を目指している次世代モバイル通信環境は一つではありません。多くの利用場面を想定し、それぞれの要求事項を満たす性能を作り込むことを目指しています。今の4G環境からスムーズに5G環境に移行できるようにすることも重要な課題となっています。こうしたことから5Gの標準化は、いくつかの段階を踏んで仕様拡充を進めることで完成度を高める手法が採られています。

3GPPが作成する第一弾の5G標準は「Release15」と呼ばれており、2018年6月に完成しました。Release15で議論してきた仕様は大きく二つあります。一つは2017年12月に完成した「NSA 5G NR」。もう一つが6月に完成した「SA 5G NR」です。

両仕様の違いは通信制御に既存の4Gシステムを用いるかどうかにあります。この違いは、名称の先頭部分にある「NSA」と「SA」で示されます。NSA は「Non-standalone」の略で、「この方式だけではシステムを組めない=4Gのシステムが必要になる」ことを意味します。一方のSAは「standalone」のことで、「この方式だけでシステムを組める=4Gシステムは不要である」という意味です。どちらの仕様も最後に「NR」とありますが、これはNew Radioの略です。これまでにない通信能力を実現するために4Gとは異なる新しい無線方式を用いていることを意味します。Release15で議論してきた二つの仕様はどちらもNRなので、4Gを超えた通信能力を新しい無線技術で実現できることを意味しています。

一般に標準が完成してから1年半~2年程度でその標準に基づいたサービスの提供が始まるので、2019年は新しい無線技術"NR"を用いた国際標準準拠の5Gサービスが世界中で発表されることになるでしょう。

国内の5G、デモサービスは2019年秋、本サービスは2020年にスタート

日本では、国も通信事業者(キャリア)も2020年にサービス開始することを目標に準備を進めています。総務省は2018年12月、5Gサービスのキャリア向け周波数割り当て方針と基地局開設に関する指針を公表し、国内における5Gサービスの実用化スケジュールを明らかにしました。2019年3月までに5Gサービス用の周波数割り当てを実施し、2019年秋には5Gデモを兼ねたプレサービスが、2020年には本サービスが始まることになりそうです。

日本における5Gサービスの実用化スケジュール(出所:総務省「第5世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設に関する指針について」、2018年12月)

日本において5Gサービスがどのようにエリア展開/サービス展開されるかは、総務省がキャリアに対する周波数割り当てをどのような観点で実施するのかを知ることで推測できます。4Gまでは、できるだけ多くの利用者が使えるようにすることを目指していたため、評価指標に人口カバー率が用いられていました。

5Gの周波数割り当てに関して総務省は、5Gサービスが担うべき新しい役割を二つ設定しています。第一は利用者のコミュニケーション用途だけでなく、IoTデバイスを結ぶネットワークインフラとして使えるようにすること。第二は、地域の課題解決やビジネス創造に結びつけるということです。具体的な重視項目としては、1)全国展開の可能性、2)地方での早期展開、3)サービス多様性の確保――が掲げられました。この方針が示されたため、5Gを提供するキャリアは、上記の3項目に力点を置いてエリア展開/サービス展開を図ることになるでしょう。

5Gサービス向けの周波数割り当ての実施における総務省の評価ポイント(出所:総務省「第5世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設に関する指針について」、2018年12月)

5Gならではの通信能力は研究開発があってこそ

国際標準が策定され、周波数割り当てが実施されれば、5Gサービスを実用化するための基本的な要件は整います。ただ、「4Gを超える通信能力」をサービスとして提供するには、それを実現する新しい技術の開発と、その技術を備えた通信機器の安定運用が欠かせません。4Gを上回る通信技術を備える通信機器をいくつも組み合わせて初めて、これらの標準や制度が生きてくるわけです。

では、4Gを超えた通信能力とは何でしょうか。ITU-Rは5Gの仕様制定に当たって、具体的な適用場面を想定し、そこで求められる通信能力を三つの異なる観点で設定しました。第1は「超高速モバイル通信」(Enhanced Mobile Broadband:eMBB)、第2は「大量・多地点通信」(Massive Machine-Type Communication:mMTC)、第3は「超高信頼の低遅延通信」(Ultra-reliable and low latency communication :URLLC)です。例えば「超高信頼の低遅延通信」の適用場面としては、自動運転や遠隔手術といった人命にかかわる遠隔制御をモバイル環境で実現することを想定しており、その際に伝送遅延がどの程度であれば安全に制御できるかという視点で具体的な目標数値を決めています。

5Gサービスが目指す4Gを上回る通信能力の適用場面の例(出所:総務省「第5世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設に関する指針について」、2018年12月)

5Gを実現するための新しい通信技術の研究開発は、世界中の通信機器メーカーが手掛けています。例えば「大量・多地点通信」を実現するには、4Gシステムのアンテナにはない新たなアンテナ技術が必要になります。具体的には、新たな高速化技術、低消費電力技術、そして小型化技術です。

本連載では、5G向けの新しいアンテナ技術の開発例として、1)密集している多数の端末と基地局が効率よく通信できる技術である「ビームの分割多重」、2)多数のアンテナ素子を用いて電波を目的の方向に集中させる「ビームフォーミング」、3)アンテナアレイの消費電力を削減する「サブアレイ間符号化技術」、4)通信品質の劣化を引き起こす電波干渉を抑制する「高精度キャリブレーション技術」などを紹介してきました。ここでは最新のアンテナ技術として、アンテナパネルの小型化技術を紹介しましょう。

2018年11月、富士通研究所は5Gで要求される10ギガビット/秒超の高速通信において、1枚のアンテナパネルで4人のユーザーへの同時通信を実現する世界最小サイズの装置を開発しました。5Gでは、電波エリアが比較的小さい基地局を数10mおきに配置するケースが想定されるため、どこにでも設置できるような機器の小型化が求められています。これまで複数端末に同時通信するときは、その端末分のアンテナパネルが必要でした。今回、アンテナ素子が発する信号の位相(角度)を高精度に制御することで信号干渉を抑えることに成功し、1枚のアンテナパネルで4方向に同時通信できるようになりました。この技術によって、これまで2枚以上必要だったアンテナパネルを13cm角のプリント板1枚に収めることができます。

富士通研究所が開発した5Gシステム用のアンテナパネル

メーカーが強みを持ち寄って最高性能のネットワークを作る

5Gサービスは、最新のアンテナ技術で実現する基地局を大容量の光ファイバ網と組み合わせ、それぞれの5G端末が求める通信特性を利用できるようにきめ細かい伝送制御を実行することで実現されます。5Gサービスは多様な伝送機器、無線機器を組み合わせ、それぞれの機器が持つ最先端技術を最大限に引き出すことで成り立つわけです。5Gサービスを提供するキャリアは、5Gサービスを提供するためのネットワークシステムを設計し、それを実現する伝送機器、無線機器を世界中の通信機器メーカーから調達して実際のネットワークを組み上げることになります。日本では、今の4Gのコアネットワークを活用して5Gシステムを作る方法が一般的になりそうです。

キャリアにとって重要なのは、1)世界中からキャリアが望む性能の機器を調達することと、2)調達した設備をつなぎ合わせてチューニングし、ネットワーク全体で求める通信能力を確保すること、3)設備の運用支援体制を整備することです。5Gシステムは、たくさんの新技術を利用することになるため、異なるメーカー製の設備間の相互運用性確保や性能チューニング作業がこれまで以上に重要になるでしょう。

キャリア向け通信機器を提供するメーカーも、こうした課題があることを理解しており、キャリアがスムーズに設備導入できる体制整備を進めています。代表例としては、富士通とエリクソンが2018年10月に発表した「5Gネットワークおよび関連サービスの提供に向けた戦略的パートナーシップ」の締結があります。その狙いは、無線基地局やコアネットワークといった、互いの技術ポートフォリオを結集した協業開発により、ダイナミックな 5G 展開を迎える日本市場およびグローバルな通信事業者を取り巻く5G エコシステムを牽引することにあります。

間近に迫る5G時代。今年はプレサービスの開始が予定されているので、料金体系を含めた5Gサービスの全体像が見えてくることでしょう。最初から5Gのすべての能力がサービス提供されることはないと思いますが、新しいモバイルの世界を実感できる事例がいくつも登場してくることを期待しています。

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。