AIとIoT 、先端テクノロジーをどう活用するべきか

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デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現にはAI(人工知能)やIoT、VR(仮想現実)などの最先端技術が不可欠です。デジタルトランスフォーメーションを推進するため、私たちは先端技術をどう活用していけば良いでしょうか。【Fujitsu Insight 2018「AI・IoT」基調講演レポート】

激動の30年が終わり、「シンギュラリティ」の時代へ

基調講演では最初に、富士通 常務理事 首席エバンジェリストの中山五輪男が登壇しました。

富士通株式会社
常務理事 首席エバンジェリスト
中山 五輪男

私は数多くの講演を通して、多くのお客様の悩み事を聞く機会があります。最近は特に「デジタルトランスフォーメーション」(以下、DX)に関することが多くなりました。DXへの取り組みについては、上手く進んでいる企業と進んでいない企業があります。殆どの場合が上手くいっていないと理解しています。今日は「DXを推進する上で何が課題なのか、どうしていけばいいのか」。そのヒントをお話しできればと思います。

平成という時代がもうすぐ終わろうとしています。1989年から始まった平成時代はまさに激動の時代でした。この30年の間に様々なことが起こりました。

平成元年はベルリンの壁が崩壊した年でした。Jリーグ開幕や長野オリンピック、安倍晋三第一次内閣の発足、Appleの「iPhone」発売などがありました。また、2008年にはリーマンショックが起こり、その後、私たちは東日本大震災にも直面しました。その間に世の中は大きく変わりました。

世界時価総額のランキングにも大きな変化を垣間見ることができます。現在の時価総額ランキングは、世界第1位がアップル、2位がアマゾン・ドット・コム、3位がアルファベット(グーグル)となっています。4位以下はマイクロソフト、フェイスブック、バークシャー・ハサウェイと続き、中国のアリババ(7位)やテンセント・ホールディングス(8位)も入っています。JPモルガン、エクソン・モービルまでがトップ10となっています。

残念ながら、日本企業はトップ10には1社も入っていません。日本企業のトップはトヨタ自動車です。時価総額は約20兆円ですが、そのトヨタ自動車ですら上位30位にも入っていません。日本企業は上位に食い込むことができていないのが現状です。

30年前を振り返ってみましょう。当時は、NTTがダントツで第1位でした。2位以下は、日本興業銀行、住友銀行、富士銀行、第一勧業銀行と続きます。6位にようやくコンピューターメーカーであるIBMがランクインします。以下、三菱銀行、エクソン、東京電力、英国のロイヤル・ダッチ・シェルという顔ぶれでした。30年前、日本企業は強く、世界を席巻していました。

現在の上位企業が30年後もランクインしていると思いますか? 1社も入っていないかもしれません。まだ誕生していない新しい会社が成長して、上位に入っているかもしれません。

今後、10年、20年の間に私たちはテクノロジーが急速に変化し、人間の生活が後戻りできないほどに変容する「シンギュラリティ」の時代を迎えます。これまで以上に激動の時代がやってくると言われています。

多くの課題を抱える日本、目指すべきは「Society 5.0」

今後、20年の間に日本はどう変わっていくでしょうか。日本政府は定期的に国勢調査を行っています。国勢調査のデータを基にある調査会社が分析して、これから日本で起こると予想されていることを幾つか紹介しましょう。

  • 2020年、日本の女性の2人に1人が50歳以上になる
  • 2022年、3世帯に1世帯が1人暮らし(特に高齢者の一人暮らしが増える)
  • 2024年、全国民の3分の1が65歳以上になる
  • 2025年、東京都の人口が減少し始める
  • 2027年、輸血不足で手術が不可能になる
  • 2033年、住宅の3戸に1戸が空き家になる

様々な課題を抱えている日本。ここにいる私たちの手で新しい日本を作っていかなければなりません。私たちが政府と一緒になって作っていく社会が「Society 5.0」です。

Society 5.0とは、サイバー空間とフィジカル空間が密接に複雑に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する「人間中心の社会(Society)」のことです。Society 5.0は、IoTやAIなどの技術によって実現されます。私たちの日常を支える例としては「ドローン宅配」「AI家電」「遠隔医療」「スマート農業」「スマート経営」「自動走行」などが挙げられます。

Society 5.0で実現されることは多岐にわたる

AIやIoT、VRを活用した最新事例

ここからは、IoTやAI、VR/MR/ARを活用したDXの最新事例をいくつか紹介していきます。

IoTやAIで工場の「見える化」が進む

中国の上海儀電(INESA)様では、IoTを活用して最先端の工場を構築して運営しています。INESA様が実現したかったのが「工場内の可視化」です。工場内で何が起こっているのか、IoTで様々なデータを収集し、AIを使って分析・予測しています。ビッグデータ解析のプラットフォームを富士通が提供しています。この未来型工場によって、INESA様では「生産性を25%向上」「製造サイクルを50%短縮」「分析時間を約10分の1まで削減」といった効果を上げています。

近い将来、「VR時代」がやってくる

平成の30年の間にインターネットが普及し、次のシンギュラリティは「VR(仮想現実)」だと言われています。今後は急激にVRが普及して、「VR時代」がやってきます。現在のTVの市場規模が12兆円であるのに対して、2025年にはVR市場が13兆円を超えると予測されています。「スマホ世代」という言葉が消えて、「VR世代」という言葉が新たに生まれてくるかもしれません。VRの出現によって、ライフスタイルやビジネスは大きく変化していくことでしょう。

  • VRで「ショッピング」が変わる
    リアル店舗での買い物は過去の話。自分の部屋でヘッドマウントディスプレイをかけながら、VR店舗で買い物をすることが当たり前になるかもしれません。
  • VRで「旅行」が変わる
    長時間飛行機に乗って現地に行かなくても、世界中の景色をVRで楽しめることもできます。日本と世界をリアルタイムでつなぐ遠隔旅行サービスは、既にKDDIが2016年に実証実験を行っています。
  • VRで「医療」が変わる
    患者の3DモデルをVRで再現し、血管の流れや動き、臓器の位置を手術の直前に確認することにも活用されています。たとえば、がんの腫瘍を取り除くための手術の最終リハーサルにVRを活用することで、短時間で確実な手術が可能になります。
  • VRで「ものづくりの現場」が変わる
    自動車のデザインをする場合、世界中に散らばったデザイナーたちがインターネットを通じてVR空間に入り、1台の自動車の3Dモデルを様々な角度から検証してデザインすることも可能になります。
  • VRで「オフィスや会議」が変わる
    会社に行って仕事をし、会議をすることも過去の話になってくるでしょう。VR空間に作られたオフィスに自分のアバターを配置して、アバター同士が会話するという会議を行うこともできます。

このように、今後一気にVRの世界が訪れることになるでしょう。

ますます身近な存在となったAI

DXで欠かせないキーワードがAIです。AIは色々なシーンで活用され始め、身近な存在となってきました。しかし、AIを導入すれば、必ずしもDXが実現できるというわけではありません。その実現には様々なハードルがあり、多くの企業が間違ったアプローチで導入を進めています。

「AIを自分たちの会社やビジネスの中でどう活用できるか考えろ」、自社の社長からこのフレーズが出てきたら要注意です。こうした考えでは、その会社のAI導入は失敗に終わります。その理由は「AI導入の先に明確なビジョンがないから」です。ビジョンがなければ、何のためにAIを入れるのか現場が理解できません。このフレーズを言ってしまう社長は非常に多いです。

まずは「どういう会社にしたいのか」「自分たちは何を目指すのか」について、経営層から一般社員を含めて議論する必要があります。社を挙げて「将来ビジョンを作る」ことが重要です。また、ただ単にビジョンを掲げるだけではなく、よりイメージが分かりやすい絵や映像にすることが大事です。それにより、社内でビジョンを明確に共有することができます。

将来ビジョンを達成するための要素として、AIやIoTというキーワードが出てきたら、そこから始めて導入を検討していけばよいのです。導入の必要性がなければ、あえて導入しなくても問題ありません。ビジョンになければ、導入しても無駄になってしまうからです。

デザイン思考のプロ集団である富士通

ただ、ビジョンを作成するのは非常に難しいです。社員一人ひとりがアイデアを持ってますが、それを引き出すことが容易ではありません。「社員からいいアイデアが出てこない」「社員から何も言ってこない」と嘆く経営者は多くいます。

ビジョン作成を支援するため、富士通では「FUJITSU Digital Transformation Center」を開設しています。FUJITSU Digital Transformation Centerは、デジタル革新に向けた共創ワークショップ空間です。「デザイン思考」という新たな手法を用いて、一人ひとりの社員のアイデアを出させやすくする環境を提供しています。デザイン思考とは、ビジネスにおける前例のない問題や未知の課題に対して、最も相応しい解決を図るための思考法です。富士通は今、デザイン思考のプロ集団となっています。

DXの実現には、「デザイン・アプローチ」での取り組みが必要

現在、FUJITSU Digital Transformation Centerはミュンヘン、ロンドン、ニューヨーク、東京、大阪にあります。今後はさらに拠点を増やしていく計画です。この施設を活用して、ぜひ皆さんの会社のビジョンを作ってほしいと思います。

中山に続いて、富士通AIサービス事業本部の東圭三が登壇し、富士通のAIやデジタルアニーラにおける具体的な取り組みを紹介しました。

デジタルトランスフォーメーションを支える富士通のAI技術

富士通株式会社
AIサービス事業本部 本部長
東 圭三

私は「Zinrai(ジンライ)」「デジタルアニーラ」という富士通にとっては最先端領域に属する事業を担当しています。Zinraiのコンセプトは、ヒューマンセントリック。つまり「人間を中心としたAI」です。また、継続的に成長するAIを標榜しています。

Zinraiでは多種多様なデータに対応できるAI技術として、最先端の技術である「ディープラーニング」を活用し、「メディアデータ」「自然言語」「数値データ」の3つのカテゴリで構成されています。

特に富士通研究所が開発した「TDA(トポロジカルデータ解析)」や「Deep Tensor®(ディープテンソル)」「ナレッジグラフ」などの技術を用いて、より高度な解析を実現しています。その一方で、AIの推定結果が得られた理由を人間が検証することが困難なため、AIを使った専門家の判断に関して説明責任が問われる分野への適用に課題がありました。そうしたある種、ブラックボックス化してしまった技術に対して、富士通では「説明可能なAI」を実現しています。

富士通では多種多様なデータに対応できるAI技術を備えている

もう一つのAI技術であるデジタルアニーラは、量子現象に着想を得て開発したデジタル回路によって「組合せ最適化問題」を高速に解く新アーキテクチャです。

デジタルアニーラでは、従来解けなかった社会的な課題の解決を支援しています。主に「化学・創薬」「医療(治療計画)」「交通(渋滞回避)」「金融(投資ポートフォリオ)」「製造流通」の5分野での支援を想定しています。

ここからは、最新のAIを活用した事例を紹介していきます。従来はエキスパートが時間をかけてやっていた手間のかかる作業を瞬間的に処理できるようになっています。

  • 川崎地質様
    道路陥没を防ぐ路面下空洞探査に活用しています。従来は地中レーダー装置を使ってエキスパートが地中の空洞を判別していました。ディープラーニング技術を使うことで、探査装置から収集した膨大なレーダー画像から地中の空洞を判別し、解析時間を10分の1まで短縮することができました。現在は精度向上を図り、より高精度に空洞を見つけることができています。
  • Siemens Gamasa Renewble Energy(スペイン)様
    風力発電用の羽根の品質検査にAIソリューションを活用しています。従来は人手で6時間かかっていた品質検査が約1時間まで短縮でき、100%不良検知率を達成しています。
  • 島津製作所様
    共同開発したAI技術を質量分析装置に適用しています。手作業が多かったピークピッキングを自動化し、熟練作業者と比べても遜色ないレベルで使える可能性が示されています。

次に紹介するのが、複数のAI技術を多段につなげて大きなソリューションを実現した「コールセンターのオペレーション業務でのAI活用」です。音声認識による問い合わせ内容のテキスト化や応答内容の要約までを自動化しています。オペレータの受電から回答、後処理までの作業を大幅に短縮しています。

続いて、デジタルアニーラの活用事例を紹介します。

  • 欧州の自動車製造会社様
    生産計画の現場で仕事(ジョブ)を機械に効率的に割り振ることで完了時刻や納期遅れ等の最小化を目的としたスケジューリング問題について、デジタルアニーラを活用して生産工程の最適化を図っています。
  • National Westminster Bank(英国)様
    資産ポートフォリオの組み合わせ最適化問題を既存のコンピュータの約300倍のスピードで高速化しています。

富士通は2018年12月に第2世代のデジタルアニーラを提供開始しました。従来比で処理速度が100倍となり、より大きな組み合わせ最適化問題が解決できます。2019年度以降は、100万ビット規模の問題を解けるように大規模並列処理を可能にするように拡張する計画です。

また、AIビジネスにおけるグローバル展開の戦略策定とその実行を担う新会社「FUJITSU Intelligence Technology」をカナダのバンクーバーに設立しました。今後は同社を拠点としてグローバルにAI・デジタルアニーラソリューションを提供していく予定です。

IoTの最新事例と注目テクノロジーを紹介

東に続き、富士通 ネットワークサービス事業本部の須賀高明が登壇。富士通のIoTにおける具体的な取り組みを紹介しました。

富士通株式会社
ネットワークサービス事業本部 本部長
須賀 高明

富士通では2014年、IoTの専任組織を創設しました。当時と比べると、現在のIoTは目的から手段に変わってきています。社内でも製造や流通など業種ごとにIoTのソリューションを提供する部隊を立ち上げています。

経済産業省「2018年版ものづくり白書」によると、製造業において「データの収集・利活用にかかる戦略・計画を主導する部門」は、企業規模を問わず経営者や経営戦略部門の参加が増加し、IT部門が本格的に参画するなど実用フェーズに入っていることが示されています。

富士通のIoT有償受注案件数も2017年と比べて1.5倍に増加しています。お客様とのPoC(実証実験)を経て、実用フェーズに入っていることが分かります。

現在、富士通はものづくり分野では「COLMINA(コルミナ)」、流通分野では「SMAVIA(スマーヴィア)」というように業種向けIoTソリューションを提供しています。ここでの重要なポイントは2つあります。1つが「既存のシステムのデータとIoTによって得られた新しいデータをどう組み合わせるか、どう活用できるか」という点です。もう1つが「システムとしての可用性や性能、セキュリティなどの非機能要件の担保」です。

IoTに関するPoCに取り組む中で、PoCでは分からない課題も出てきています。たとえば、連携するデバイスやシステムが増えることで大量のデータをどう処理するか、連携先が増えたことでセキュリティ対策をどうするのかといった問題が顕在化しています。これらは実用化するためには避けては通れない課題だと言えます。富士通では「大規模リアルタイム処理」「エッジコンピューティング」の2つの技術でその解決を目指しています。

大規模リアルタイム処理とエッジコンピューティングでIoT活用における課題を解決する

大規模リアルタイム処理では、富士通研究所が発表した「Dracena(ドラセナ)」という技術を活用します。Dracenaは、大量のIoTデータ処理を停止することなく処理内容の追加や変更を実行できるストリームデータ処理アーキテクチャです。

全てのデータをクラウドに集めるのは大変です。そこでエッジコンピューティングが役に立ちます。セキュリティの観点からも重要な情報は現場で、分析に必要なデータだけクラウドに使い分けるハイブリッド型の組み合わせも可能です。

富士通では分散されたエッジデータの効率的な再利用を可能にする「DRC(ダイナミックリソースコントローラ)」技術を開発しています。センサーから収集された大量のデータの処理を、最も効率的に行えるよう自動的にクラウドとエッジコンピュータに振り分けることが可能です。

このように既存システムとIoTとの連携、IoTにおける大規模な処理やセキュリティの要望などに応えるためには様々な技術が必要となります。富士通では、それに応えるソリューションを多く取り揃えています。

これからも富士通は、国内に約400社ある富士通グループ全体で一丸となり、全国のお客様のデジタル革新をサポートしていきます。

登壇者

富士通株式会社
常務理事
グローバルマーケティング部門
首席エバンジェリスト
中山 五輪男

富士通株式会社
AIサービス事業本部
本部長
東 圭三

富士通株式会社
ネットワークサービス事業本部
本部長
須賀 高明