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全く新しいアーキテクチャ「デジタルアニーラ」革新的なコンピューティング技術が切り拓く新しい未来とは?

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富士通はデジタルアニーラ商用サービスを2018年5月15日に開始しました。富士通フォーラム2018のフロントセッション「デジタルアニーラが切り拓く新しい未来」では、カナダのトロント大学教授のアリ・シェイコレスラミ氏と1QB Information Technology(1QBit)最高経営責任者のアンドリュー・フルスマン氏が登壇。医療や都市交通、金融など人々の暮らしに密接に関わる様々な分野でデジタルアニーラの活用がどのように進められているのか、その最前線を紹介しました。
【富士通フォーラム 2018 フロントラインセッション レポート】

富士通株式会社
執行役員常務
吉澤 尚子

本セッションのモデレーターを務める富士通研究所取締役の堀江健志は、まずデジタルアニーラのビジネス責任者である富士通執行役員常務の吉澤尚子を紹介しました。

吉澤は「AIを加速する3つのテクノロジーとしてHPC、ディープラーニングとデジタルアニーラがあります」と切り出しました。富士通は、HPCの分野ではスーパーコンピュータ「京」の開発に携わり、現在はその後継機の開発を行っています。ディープラーニングに関しては専用プロセッサー(DLU)を2018年にリリースすると説明しました。「デジタルアニーラを含めた、3つの技術をすべて保有しているのは富士通だけであり、それぞれの要素が相互に関係してソリューションを構築していく」と説明しました。

汎用コンピューティングと次世代コンピューティングの架け橋となる「デジタルアニーラ」

次世代コンピューティングとして量子コンピュータの実用化が期待される中、世界中のビッグプレーヤーによる開発競争が激しさを増しています。しかし、現実社会の様々な課題解決が可能な量子コンピュータが実用化されるまでには、時間がかかると考えられています。

その中で富士通は量子現象に着想を得て設計されたデジタル回路を用いて「組合せ最適化問題」の解決に特化した全く新しいコンピュータ「デジタルアニーラ」を開発し、2018年5月15日にクラウドサービスの提供を開始しました。「組合せ最適化問題」は、創薬や金融、流通をはじめとした様々な業種において存在する課題であり、その解決には多くのビジネスチャンスがあると考えています。

量子現象に着想を得た、デジタル回路によるデジタルアニーラ

デジタルアニーラは既存の半導体技術で作られているため、特別な冷却装置を用いること無く常温で安定した動作を実現します。デジタルアニーラは、組合せ最適化問題に飛躍的な能力を発揮し、大規模な計算や、高い精度が求められる、実用レベルの様々な組合せ最適化問題を解くことができます。富士通グループでの社内実践では、生産現場の倉庫内の部品ピックアップ業務において、ピックアップのための移動を最適化し、20%の移動距離削減できました。さらに、倉庫内の部品位置の最適化を行うことによって、移動距離を45%まで削減することができます。

富士通ITプロダクツにおける社内実践例。工場内の動線を最適化し生産性向上

これまで計算に極めて時間のかかった「組合せ最適化問題」を高速に解決

デジタルアニーラの第1世代をまずはクラウドサービスとして提供開始します。2018年度第三四半期には、性能をさらに高めた第2世代のDAU(Digital Annealer UNIT)や、オンプレミスでの提供も予定しています。加えてDAUを並べた大規模並列処理技術を現在開発中です。これらの技術により、2019年度までに100万bit規模の問題に対応できるよう問題解決能力を飛躍的に高めます。

デジタルアニーラはまず1024bitの第1世代をクラウドサービスとして利用可能で、本年度中に最大8192bitのDAUが登場し、オンプレミス製品も登場

第2世代のDAUは精度・規模がさらに高まり、また金融など高い精度が必要な問題向けと、化学など大きな規模が必要な問題向けと、問題によって構成を切り替えることにより、適用領域が拡大すると考えています。

構成を切り替えることで適用領域を拡大

吉澤の説明を受けて、富士通研究所取締役の堀江健志は「デジタルアニーラはすでにお客様との検証が進んでおり、技術開発と共にクラウドサービス、テクニカルサービスがグローバルに順次展開され、社会課題に対して取り組みが進んでいます」とまとめました。

最適化問題の解決には1QBit社のソフトウェアとデジタルアニーラの組み合わせがベストソリューション

1QBiti Information Technologies
最高経営責任者
アンドリュー・フルスマン 氏

次に、堀江はデジタルアニーラをグローバルに展開するパートナーとして、量子コンピューティングソフトウェアのトップベンダーであるカナダ・1QBit社 最高経営責任者のアンドリュー・フルスマン氏を紹介しました。

富士通は量子コンピューティング向けソフトウェアベンダーのトップベンダーである、1QBit社とパートナーシップを締結しています。富士通は1QBit社との協業により、デジタルアニーラのサービス提供を行い、グローバルでビジネスを展開していきます。

1QBit社とのパートナーシップ

アンドリュー氏は、「このステージに250のライトを用意し、最適な配光の組み合わせを得るために全ての組み合わせを試すと、その組み合わせ数は2の250乗となり、観測可能な宇宙の原子数とほぼ同程度で、すべて試すためには理論上、宇宙の歴史よりも長い時間がかかる」とし、このような「組合せ最適化問題」をデジタルアニーラで解決する事例を紹介しました。

その1つが金融業界で、JPモルガンでは階層型の最小分数法によってリスクパリティのポートフォリオを構築しました。株価との組み合わせの相関関係を計算することによってリスクを20%削減できることが証明できました。

また、化学分野では、分子構造を数学的なグラフに落とし込むことで複数の分子の類似性を数値化して分析することができます。グラフ構造を分析することができるのがデジタルアニーラの強力な点で、将来はさらに複雑な分析が可能になります。
アンドリュー氏は「今後、処理能力が爆発的に急増し、富士通と1QBit社によって新しいコンピューティング革新を現実のものにしていきたい」とまとめました。

ここで堀江が「1QBit社は量子コンピューティングソフトウェアのトップベンダーだが、なぜ富士通とグローバルなパートナーシップを組むようになったのか?」と質問。アンドリュー氏は「富士通のデジタルアニーラは将来の量子コンピュータとの架け橋となっており、現時点では1QBit社のソフトウェアを動かすベストソリューションとなっているため」と答えました。

デジタルアニーラで学際的な課題解決の取り組みを行うトロント大学

トロント大学
アリ・シェイコレスラミ 氏

最後に堀江は、富士通研究所と共同研究をしているカナダ・トロント大学の教授、アリ・シェイコレスラミ氏を紹介しました。トロント大学はAIと量子コンピュータでトップクラスの研究機関で、富士通研究所は2018年3月に共同研究拠点"Fujitsu Co-Creation Research Laboratory at the University of Toronto"をトロント大学内に開設。スマート交通、金融、ネットワーク、医療等の多方面で新しいデジタルアニーラの応用領域を拡大すべく、多くの学部や研究者と一体となった共同研究を進めています。

また、アリ氏は大学院生時代(1988年)にインターンとして富士通研究所に在籍して以来、富士通と様々な分野で共同研究を行っています。同氏はデジタルアニーラを活用したトロント大学における応用研究を紹介しました。

トロント大学とのパートナーシップ

デジタルアニーラの応用分野には、放射線療法、脳と機械のインターフェース、都市交通、ワイヤレスアプリケーションとコネクティビティ、経済などがあります。これらの分野には関連性がないように思えますが、すべて「最適化したい」という共通点があります。

がんは世界的に見ても死因の第1位です。2012年には1400万の新しいがん発症事例があり、2017年にはカナダで8万人が、日本では37万8000人ががんによって亡くなりました。その一方でがん治療に関する研究も各地で進められています。

現在、世界中で使われているがん治療法の1つとしてVMAT(強度変調回転放射線治療)があります。VMATは、機械が回転して角度を変えながら放射線照射を行う治療法です。がん細胞に最大の効果を与えつつ、周囲にある正常な細胞に極力影響を与えない放射線の角度、照射領域と時間の照射最適化が重要になります。

がんの放射線治療ではがん細胞に最大に放射線を照射し、周囲にある正常組織には可能な限り影響しない照射最適化が重要

トロント大学では先端的な病院と共同で研究を行っており、デジタルアニーラを使って30分以内に最適な解を見つけようとしています。将来的に複雑な形状のがん組織にも対応するため、複数のDAUを使って最適解を得るための研究も行われています。

他の応用例について紹介します。脳の構造を解析する研究は、タウフィク・ヴァリアンテ(Taufik Valiante)博士が取り組んでいます。脳のニューロンの間の繋がり方やニューロンごとの特質、また結びつきなどについて、デジタルアニーラを使って解析に向けた研究を進めています。この解析によって、アルツハイマー病やうつ病のような、脳に関する疾病の治療に活用できるものと考えています。

次に社会的な問題である都市交通に関して、デジタルアニーラを活用している例を2つご紹介します。

アルベルト・レオンガルシア(Alberto Leon-Garcia)教授は、都市交通に関して長年研究されています。デジタルアニーラを活用することで、刻々と変わる道路状況に対してリアルタイムに最適解を見つけ出すことができるため、渋滞を限りなく減らす事が期待できます。

また、近い将来にコネクテッドカーが普及します。コネクテッドカーは車同士だけでなく、インフラやネットワークとも通信を行います。限られた無線リソースの最適な利用のためにデジタルアニーラを利用する研究をシャールフ・ヴァライー(Shahrokh Valaee)教授が行っています。

さらに非常に重要なテーマとしてFintechがあります。アンドリューさんの話にもありましたが、トロント大学でもユリ・ローリシュイン(Yuri Lawryshyn)教授がこの領域でリスク最小化投資や高速取引のアルゴリズム、信用評価などの研究を続けています。トロント大学では富士通研究所とFintechの研究を進めています。

このようにデジタルアニーラはこれまでの汎用コンピューティングをベースにしていますが、量子アニーリング方式と十分対抗できる組合せ最適化問題の解決能力を持っています。そして非常に使い勝手がよく、実用レベルの精度を実現しています。

以上のアリ氏のコメントに対し、堀江は「トロント大学と富士通研究所の20年にも及ぶ長い関係があり、トロント大学でデジタルアニーラの色々な新しい応用が進んでいると共に社会的なインパクトの大きな成果に繋がると期待を持っていただけたと思います」とまとめました。

専門分野を横断した取り組みによってさらなる発展へ

株式会社富士通研究所
取締役
堀江 健志

講演を受けて、モデレーターの堀江は「トロント大学では理学・工学、応用領域が一緒になって、うまく社会課題の解決に向けて取り組んでいるが、その強さはどこから来ているのか?」と質問。これに対しアリ氏は「トロント大学では学部同士で勉強しあおうという雰囲気がある。色々な分野の教授や研究者がデジタルアニーラを使う事で、これからも様々な成果が出てくると思います」と答えました。

また、堀江は3人に「不可能を可能し、社会課題に取り組むためには、いかにお客様の課題に深く入り込み、高い専門性を持って問題を解決していくかが重要です。どのように進めていくべきなのでしょうか?」と問いかけました。

アンドリュー氏は「1QBit社は、かなり早い段階からクライアントに関わることを重要視しています。量子関連のテクノロジーは私たちの得意分野ですが、解決すべき社会問題を一番理解しているのはクライアント自身です。クライアントと協力することによって学際的な有識者、ある分野に強みを持っている専門家などを組み合わせて、一番いいテクノロジーの使い方、応用方法を見つけます。どこにニーズがあって、それに対するソリューションはどういったものかを取り合わせるのが私たちのやり方です」と答えました。

アリ氏は「スタートアップ企業はこういった問題を解決する一つの手段です。私たちはいくつかのスタートアップに対して『あなたが興味を持っている分野でデジタルアニーラを使ってみて下さい』と言っています。いろんな分野の教授や研究者がスタートアップの会社を作って、デジタルアニーラを使っていくと色々なソリューションがこれから出てくると思います」と述べました。

吉澤は「その問題はデジタルアニーラだけでなくAI全般に言えます。AIやデジタルアニーラは技術ですので、本当の意味でのソリューションに生かすかは、その業種・ドメインのナレッジがなければ非常に難しい。デジタルアニーラが解決すべき課題はお客様のコアな業務領域であり、お客様の

デジタルアニーラとAIを加速する協業

次に堀江は「デジタルアニーラとAIの関係」について意見を伺いました。

アリ氏は「AIとデジタルアニーラができることには非常に大きな類似性があると思います。機械学習では問題を解くためにニューラルネットワークを最適化します。つまり、いくつか解の候補がある中、適した解が得られるようにニューラルネットワークを問題に合わせ込んでいきます。また、機械学習のトレーニングに対してデジタルアニーラを使う事で処理を加速化して学習時間を短くすることができます」と答えました。

アンドリュー氏は「私はデジタルアニーラに熱意を感じます。何十年も、どうやったら物を考える機械を作ることができるか?というコンセプトを検討してきましたが、実現する演算能力がありませんでした。ディープラーニングはAIの問題を解決するショートカットだと思いますが、それだけでは足らない。デジタルアニーラによってAIの可能性を驚くほど引き上げる可能性があり、その発展に期待しています」と語りました。

最後に堀江は、「デジタルアニーラへの期待と提言」を3人に伺いました。

アリ氏は「私は2つの大きな研究の方向があると思っています。まず、デジタルアニーラのハードウェアがより柔軟になる必要があります。アプリケーションによってデジタルアニーラを再構成できることが必要です。
また、アプリケーションの分野ではより学際的な研究が必要だと思います。例えば今回は5人の教授の取組みを紹介しましたが、このように多くの研究者・学生が具体的に協働し、デジタルアニーラの適用領域を広げるのが重要だと思います」と説明しました。

アンドリュー氏は「私はデジタルアニーラを多くの人が使えるようにすることが重要だと思っています。ハードウェアをどのように拡張していくのかとか、1QBit社もソフトウェアの観点で取り組んでいきたいと思っています」と答えました。

吉澤は「まさにハード、ソフト、人が重要ということで、これは富士通だけではできないと思っています。まさに『Co-creation for success』で取り組んでいきます」と語り、講演を終了しました。

登壇者

1QB Information Technologies Inc.
最高経営責任者
アンドリュー・フルスマン 氏

トロント大学
電気・コンピュータ工学部 教授
アリ・シェイコレスラミ 氏

富士通株式会社
執行役員常務デジタルサービス部門 副部門長
吉澤 尚子

富士通研究所
取締役 兼デジタルアニーラプロジェクト長
堀江 健志