VRの現在と未来・・・医療現場の活用事例も

VR(バーチャルリアリティ)は今やゲームやアトラクションの領域にとどまらず、ビジネスの現場でも活用が進んでいます。
2018年5月17日~18日に開催された「富士通フォーラム 2018」では、カンファレンス「ビジネスの新たな可能性を切り開く、富士通のVR(仮想現実)バーチャルがリアルとの境界を超える。SFの世界を現実にする技術」を開催。
仮想世界(SF)を描く小説家や、ヘルスケア領域でのVR活用(心臓シミュレータ)を実際に進めている有識者を交えて、ビジネスへのVR適用ポイントと今後の可能性についてご紹介しました。

【富士通フォーラム2018 カンファレンスレポート】

VRは私たちの暮らしをどう変えるのか

2025年には13兆円市場になると予測されるVR

まず始めに、富士通の首席エバンジェリスト中山がVR市場について説明しました。

富士通株式会社
常務理事 首席エバンジェリスト
中山 五輪男

仮想現実(Virtual Reality:VR)は、「実際にそこには存在していないものを、ユーザーの五感を刺激することで理工学的に作り出す技術」と定義されています。現在、SonyのPlayStation VRや、HTCのVive、SamsungのGear VRなど、さまざまなメーカーからVRゴーグルなどのハードウェアが出ており、関連アプリケーションも非常に豊富になってきています。
VRは2018年以降に急成長し、2022年には現在の5倍以上の成長を遂げ、3兆円規模の市場になると予測されています。さらに、2025年には12兆円のテレビ市場を抜き、13兆円市場に成長するとの予測もあります。

米国ザイオン・マーケットリサーチ調査データ

ゴールドマンサックス調査データ

最新のVR事例をいくつかご紹介しましょう。例えば、自宅からVRでショッピングできるShelfZoneのサービス。自分の部屋にいながら、あたかもお店にいるようなショッピング体験が可能になります。これからは、この動画のような世界が当たり前になってくると思います。

ShelfZoneのVRショッピング動画

Facebookも、2014年にOculusを買収し、2017年にVRの世界の中でリアルな友達のアバターと楽しむことができるソーシャルVR「Facebook Spaces」をリリースしています。このように、私たちの身近な所で非常に魅力的なVRサービスがどんどん登場しています。

医療におけるVR/MR先進活用事例

続いて、ヘルスケア領域でのVR活用の第一人者である杉本氏にご登壇いただき、最新の医療の現場でのVR/MR活用事例をお話しいただきました。

Holoeyes株式会社 共同創業者/取締役COO、株式会社Mediaccel共同創業者/代表取締役CEO、東京大学先端科学技術研究センター 身体情報学分野 客員研究員
杉本 真樹氏

医者の仕事の効率化を叶えるテクノロジーとして、私はVR/AR/MRに注目をしています。最近ではそれらをあわせてXR(Extended Reality)と呼んだりします。

これまでのような2Dの平面モニターでは、空間は認識できません。医療の現場でも、例えば内視鏡手術などの際、フラットな2Dモニターでお腹の中の映像を見ているかぎり、実際の臓器の奥行きや位置関係を正確には把握できないまま手術しているのが現状です。
そのため、開腹手術よりも内視鏡手術の方が、臓器損傷が多いという統計もあります。

こうした問題を解決するため、私たちは"空間"でものを見るための技術を開発しました。その1つが、CTやMRIなどで撮影された2次元の画像を再構成して、3次元画像を作成する「OsiriX(オザイリクス)」です。
これにより、癌や血管など、一つ一つの臓器の形状をポリゴンというデータに書き起こし、一つの座標で表現することで、空間の中で直観的に捉えることができるようになります。
人間の視差を利用し、右目と左目それぞれのデータをシンクロさせることで、立体視が可能になります。これに、ヘッドマウントディスプレイを活用することで、奥行きを体感でき、より没入感を生み出すことができるのです。
私たちは、このVR技術を手術に応用しています。例えば、手術の前には実際の患者さんのデータを使い、手術の練習やシミュレーションを行うことができます。

もう1つ、富士通と共同開発したのは「心臓シミュレータ」のVR化(注)です。これは、心臓の形状はもちろん、非常に複雑な機能や疾患状態をシミュレーションにより再現し、心臓そのものの動き、血流、圧力、電気信号の流れなどをVRで立体視化するものです。
この技術を活用すれば、「こういう施術をすれば、このように血流や圧力が変わる」などといったことも視覚的にわかるのでベテランの心臓外科医のノウハウや技術の若手への伝承にも使えるのではないかと考えています。

リアリティを追求したVR/MRによる医療教育

(注)今回はシミュレーションの出力データをVR表示するトライアルを実施

さらに進んだ技術として、複合現実(Mixed Reality:MR)が挙げられます。
私たちは、手術でのMR活用も進めています。

マイクロソフトの「HoloLens(ホロレンズ)」は自分の周りを絶えずスキャンでき、たとえばベテラン外科医と若手医師が手術中にHoloLensを装着すると、「今からここを切ります、ここは動脈があるから危ない」などといったことをリアルタイムに共有できます。そのため、手術時間の短縮や患者負担の軽減というメリットが得られています。
これらの技術は、患者さんのみではなく、健康な人にも応用できます。ある調査によると、妊婦の60%は不安を抱えており、鬱などの症状につながっていることが分かっています。そこで、XRでお腹の中の赤ちゃんの様子を見せてあげることで愛着が湧き、生まれる前から家族の絆が生まれ、鬱や愛着障害の予防につながるという研究も始まっています。

テクノロジーの進化で、SF小説で描いた未来が現実に?

続いてSF作家の藤井氏より、SF視点からみたVRの未来予測についてお話いただきました。

SF作家
藤井 太洋氏

まず自己紹介からさせてください。私は元々3Dソフトウェアの開発をしていたのですが、ある時急に小説が描きたくなって、電車の中でiPhoneに書き留めていって2012年に小説家としてデビューしました。

私のデビュー作『Gene Mapper』は2038年を舞台に、遺伝子組み換えされた農作物について描いた作品です。この本の中で多くのページを割いたのが、VRを使った人と人との未来のコミュニケーションの様子でした。
作中の登場人物は、コンタクトレンズを用いることで、常にMR・XR状態にあります。多くのビジネスパーソンがこのコンタクトを使っています。例えばビジネスカンファレンスなどでは、目の前に会議相手のアバターをコンタクトレンズが投影し、アバター同士がコミュニケーションをしたり・・・そんな未来を描いています。

作中では、かなり細かい設定を詰め込んでいます。例えば、Skypeをはじめとするインターネット通信は、現実では必ず0.2秒から1秒位遅れが生じてしまいます。そのためビデオ会議越しに合唱することはできませんよね。『Gene Mapper』では、スムーズにコミュニケーションが行えるようこの遅延をアバターが調整したり、会話の中で発生する「あの~」とか「え~と」というようなグリッチを取り除いてくれたり、もしくはビジネスカンファレンスの中でNDAに触れるような発言をしようとすると、アバターが自動的に削除してくれたり・・・・そんな世界を描いています。

読者の方に、「本当にこんな未来が来そう」と思ってもらえるように、テクノロジーの描写はかなり工夫をしているのですが、その中で参考にしたのが執筆当時の富士通の「BAN(ボディー・エリア・ネットワーク)」のWebページ(http://pr.fujitsu.com/jp/news/2014/02/12.html)でした。
これは、人体そのものをネットワークの伝送経路にするという技術で、きっとこれを使うと、コンタクトレンズにメガバイト単位の映像を送り込んだりできるんだろうな・・・などと想像しながら、小説を書いていました。

小説で描いた未来のように、私たちが今生きる世界もテクノロジーで変化し続けています。2012年にiPhoneが登場してから、私たちのコミュニケーションは完全に変わりましたよね。VRの登場で、私たちの生活に、さらなる変化をもたらすのではないかと考えています。

VRによって変わりつつある人々の暮らし

カンファレンスの後半では、VRがもたらす未来についてディスカッションを行いました。

バーチャルはリアルを超えるのか

中山: バーチャルはリアルを超えるのか?よくこのような議論がされていると思いますが、皆さんの具体的な取り組みや考え方をお聞かせいただけますか?

杉本氏: 今や通貨やコミュニケーションなど、さまざまなことがVR空間で行えるようになりました。さらに最近はMRなど、現実とうまくあわせるような技術も普及しています。
最終的には、VRとリアルの切り分けを考え、うまく共存させることが重要なのではないかと考えます。

藤井氏: VRは、スタンドアロン型のVRヘッドセット「Oculus Go」などのように、PCなどに接続されなくても使えるモビリティを手に入れた瞬間、パラダイムシフトが生まれると考えています。
これからVRは "実質的に何か用をなす"という単語"Virtual"の本来の意味に近づき、バーチャルとリアルの対立という議論は恐らくなくなってくるのではないかと思いますね。

中山: 私はFacebook Spacesが、今後一気に広がっていくのではないかと思っています。これは完全にアバターの世界で、アバター同士がコミュニケーションを行うものです。バーチャルがリアルを超えるかという問いに対しては、このようなサービスに非常に期待が持てます。

杉本氏: 先日パロアルトに出張した際に、会議がアバターを使ったVTuberで行われているのを見ました。アバターを使うことで相手に忖度せず本音を言えて、相手の意見に反論もできるから本質的な会話ができるという話を聞きました。

中山: 2つめのテーマは、医療と健康のコンシューマライゼーションです。これについては皆さんどのようにお考えですか?

杉本氏: 最近は一般の人の方がすばらしいコンテンツを作るようになってきていてプロの仕事がだんだんと減ってきている、B2BとB2Cの領域が曖昧になっています。最近思うのですが、VRでは意外と背景が重要です。通常VRは背景が真っ黒なことが多いですが、ちょうど手術の練習用コンテンツをつくっていた時に、背景にオペ室の画像を貼ってみたところ、「まるでオペ室にいて本当に練習している感じがする」と若手に好評でした。こういったところに新しいマーケットが生まれるヒントがあるんだと思います。

VRは医療現場の"暗黙知の伝承"も解消する

中山: ビジネスにおけるVR/AI活用の成功のコツについて教えてください。

富士通株式会社
第二ヘルスケアソリューション事業本部
第三ソリューション事業部
第一ソリューション開発部 シニアマネージャー
渡邉 正宏

渡邉: 富士通は2018年4月11日からVRを活用した「Heart Explorer」を発売開始しています。これは富士通と東京大学様が共同研究する心臓シミュレータで、心臓全体、血流、冠循環の血圧などの出力データをそのまま教材として活用しています。また、ビューワ(Heart Explorer)とzSpaceディスプレイの活用により、心臓の複雑な血管の構造や心筋の時間変化が再現され、体感的に理解できるほか、別ソフトzViewと連携してAR表示すれば、VRグラスをかけていなくても、学生とも共有することができます。これにより、教科書に書いてある知識を体感し、より強化することが可能になります。

中山: VRとAIの融合については、どうお考えでしょうか?

藤井氏: 私の作品で描いたコンタクトレンズ。仮に価格が3万円だとして、3億人が使ったら9兆円になります。VRには、携帯電話並みに普及した瞬間、非常に大きなビジネスインパクトになります。誰にでもチャンスはあると思うので、VRやAI、これらの見逃せない技術についてぜひ日本からイノベーションが生まれて欲しいと願っています。

杉本氏: VRとAIが医療現場の暗黙知問題を解決する手がかりになると考えています。ベテランの先生の技術は文字や絵に変換するのが難しく、結果的に若手はなんとなく見て覚えるのが当たり前になっています。そこを、VRをうまく使ってベテランの行動や視線を記録し、若手がそれをヘッドマウントディスプレイから体験、練習できるような仕組みを開発しています。データ自体は手術記録にもなりますし、さらにはそのデータをデータベース化してディープラーニングさせれば、次の患者の治療にも使えます。

コンシューマー側でもVRの採用は進んでいます。今は自分のCT画像やMRI画像を無料ソフトで簡単にVRに変換できるようになってきています。このようなVRが普及することで、健康意識の向上にもつながるといいですね。

登壇者

Holoeyes株式会社 共同創業者/取締役COO、株式会社Mediaccel共同創業者/代表取締役CEO、東京大学先端科学技術研究センター 身体情報学分野 客員研究員
杉本 真樹 氏

SF作家
藤井 太洋 氏

富士通株式会社
常務理事 首席エバンジェリスト
中山 五輪男

富士通株式会社
第二ヘルスケアソリューション事業本部 第三ソリューション事業部
第一ソリューション開発部 シニアマネージャー
渡邉 正宏