新たな企業経営のかたちを探る オープンイノベーションの成功条件とは

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既存事業の延長線上にない商品やサービス開発の早期実現に向けて、スタートアップとの協業や様々な技術・スキルを有した人材の活用が注目されています。こうしたオープンイノベーションの動きが加速する一方、積極的に取り組めていない日本企業も多いのではないでしょうか。日本企業が抱える課題と改善を目指すためのヒントを探りました。
【富士通フォーラム2017 カンファレンスレポート】

イノベーションを起こすために重要な「知の探索」とは

カンファレンスは前半「企業におけるイノベーションの作り方」をテーマに、パネリストとして、早稲田大学の入山章栄氏、経済産業省の滝澤豪氏、富士通の阪井洋之が、モデレーターのQuantumの高松充氏とともにディスカッションを行いました。

株式会社QUANTUM
代表取締役社長兼CEO
高松 充 氏

冒頭、モデレーターの高松氏は、「日本企業の約8割はオープンイノベーションに消極的」というアンケート結果を紹介しました。なぜなら多くの企業が、自社にはイノベーションが必要と考えているものの、「スキルを持つ人がいない」「組織が改革に不向き」などの理由から積極的にイノベーションと向き合えていないのです。

早稲田大学大学院
早稲田大学ビジネススクール
准教授
入山 章栄 氏

入山氏は、経営学の見地から、イノベーションは「何か新しいことをして会社を前に進めることであり、その第一歩は『新しい知』の創出である」と説明しました。「新しい知」とは常に、今ある「既存の知」と、別の「既存の知」の新しい組み合わせです。

イノベーションを起こせない企業や組織は、目に見える既存の知の組み合わせを既に試し尽くしています。より遠くの知を幅広く探索して、既存の知と新しく組み合わせる必要があります。これを「知の探索(Exploration)」と言います。ベンチャー等との協業は、典型的な知の探索です。

一方、知の探索にはコストも時間もかかりますし、失敗することも少なくありません。結果が求められる大企業では、知の探索を行う一方、既存の知をさらに追求する「知の深化(Exploitation)」も試します。知の「探索」と「深化」をバランス良く行う企業はイノベーションを起こしやすい、というのが世界の経営学の常識です。

ところが、知の探索で結果が出ないと、企業は予算を知の深化に集中してしまいます。現に収益を上げている分野を深掘りするので短期的には儲かりますが、中長期的にイノベーションを起こせなくなります。これをコンピテンシー・トラップと言い、多くの日本企業の現状です。

経営者の長期企業ビジョンがイノベーションの鍵

イノベーションを起こすためには、経営者が組織を「知の探索」に振り向けることがとても重要です。このためには、20年先、30年先の社会を見据えた長期のトレンドとそれに対する企業のビジョンを、経営陣全員が共通して持たなければなりません。多くの日本企業には、数年単位の中期ビジョンはあっても長期ビジョンがなく、経営陣の足並みが揃わないのでイノベーションが起こせません。入山氏は「経営陣が、自らの仕事は長期のビジョンを立てて全社員を納得させること、という意識を持つことが重要です」と述べました。

「知の探索」について、滝澤氏は人材という観点から、「知の探索は経営陣だけの仕事ではなく、社員一人一人にもできること」と発言しました。具体的には、社外へ積極的に出ていろいろな人とコミュニケーションを重ねて、緩やかなつながりを築いていくことが、社内の人材育成に役立つと捉えています。

滝澤氏の経済産業省では、ITソフトウェア業界とともに、月平均の残業時間を20時間までとする働き方改革を進めています。ITソフトウェア企業の魅力を高める目的に加え、社外でコミュニケーションを築く機会を増やしたいことが背景にあります。

誰も手がけたことのない「未踏」分野へ

経済産業省
商務情報政策局
情報処理振興課長
滝澤 豪 氏

また、滝澤氏が担当する事業に「未踏IT人材発掘・育成事業」があります。誰もやったことのない「未踏」のアイデアや技術を持つ天才を発掘して、産学会で活躍する著名なプロジェクトマネージャーの元で育てようと、2000年に開始したプロジェクトです。これまでに1650人を育成し、約255名が起業したり、富士通などの企業に入社して事業化に取り組んでいます。

ここで高松氏は、イノベーションの具体的な事例を紹介するにあたり、未踏プロジェクト出身で、2016年に富士通に入社後、阪井のチームで働いている本多達也を壇上に招きました。本多は、学生時代から耳が全く聞こえない「ろう者」が音を感じることができるユーザーインターフェースの開発に取り組んで来ました。

富士通株式会社
マーケティング戦略本部
ブランド・デザイン戦略統括部
エクスペリエンスデザイン部
本多 達也

「Ontenna(オンテナ)」と名付けられた装置をヘアピンのように髪に装着すると、伝わった音を振動や光に変換してろう者に知らせます。リズムやパターンに応じて振動や光の強さを変えられるので、掃除機の音、玄関のインターフォン、メールの着信などの音の違いを利用者が判別することができます。

プロトタイプが完成すると、本多は全国のろう学校やろう団体を回ってヒアリングやワークショップを行い、そのフィードバックを取り入れた新しいOntennaを開発しました。

イノベーションを成功させるポイントとは

富士通株式会社
執行役員常務
CMO
阪井 洋之

阪井は、クラウドを活用した新規のICTビジネスに取り組み、農業事業のグループ会社などを立ちあげてきた経験を踏まえて、経営側の観点からイノベーションを実行するポイントとして、「小さく始めること」と「リーダーは、5年は続けること」の2点を挙げました。

阪井が手がけた農業事業のグループ会社は、何とか事業化にはこぎつけたものの、損益的には及第点に及びませんでした。しっかりしたアプリケーションを作ろうと最初にお金をかけすぎて、損益分岐点のハードルが高くなってしまったのです。「最初は小さな規模から始めて、小さな成功を積み重ねて大きくしていくサイクルにすべきでした」と振り返りました。

また、大手企業には必ずある人事異動について、「新規事業を起ち上げた時にリーダーが変わると同じ思いを継承できないため、致命傷になる」と指摘しました。事業を軌道に乗せるためにはリーダーは最低でも5年は続けるべきで、何らかの人事的配慮が必要です。

そして、経営陣が留意すべきポイントとして次の3点を挙げました。第1に、「未踏」出身で富士通へ来てくれた本多のような素晴らしい人材の存在です。社外にも得難い人材は大勢いる、ということを再認識しなければなりません。

第2に、プロジェクトの担当者が自由に活動できるように「守ってあげること」第3が、「活動資金は、多すぎず少なすぎず」であることです。担当者が自ら動いて、社内でも社外でも協力者を求めていくように促し、「新たなCo-creation(コ・クリエーション)が生まれることも重要だ」と考えを示しました。

後半は、オープンイノベーションに取り組むための外部リソースの活用と共創、特にスタートアップ(ベンチャー)との共創をテーマにディスカッションが続きました。

スタートアップとの協業は時間を決めて「集中検討」

最初に高松氏が、スタートアップの人々は、企業に勤めるサラリーマンとはスタイルも付き合い方も全く異なること、スタートアップのような起業者の人口比率が日本はアメリカの半分以下であること、ベンチャー投資の金額や件数も欧米はおろか中国にも後塵を拝していることなど、日本のスタートアップの現状を紹介しました。

株式会社QUANTUM
代表取締役社長兼CEO
高松 充 氏

特に、スタートアップからのいわゆるEXITの形で、「日本ではIPO(株式公開)が主流のイメージがありますが、アメリカでは8割以上が、企業がスタートアップを買収するM&Aだ」(高松氏)と強調しました。日本でも、大企業へEXITするスタートアップが増えれば、新たなスタートアップが増えるポジティブなサイクルが回り出すのではないか、ということです。

また、企業とスタートアップとの共創を恋愛に例え、「出会って、付き合い、結婚する(時には別れる)」までのプロセスには準備が必要とし、そのプロセスをシステマティックに運営している富士通の阪井に意見を求めました。

富士通株式会社
執行役員常務
CMO
阪井 洋之

阪井は、早くからスタートアップ/富士通グループの事業部との協業を模索してきたものの、両者の時間軸が合わないことや経営陣との調整不足などでうまく進まなかった反省を踏まえて2015年から開始した「MetaArcベチャープログラム」を紹介しました。

このプログラムはまず、スタートアップから協業の応募を募るとともに、富士通グループの事業部に協業提案のプレゼンテーションをしていただくピッチコンテストを実施します。そして、富士通グループの事業部との協業検討期間を設け、最終的に協業を決めるまでの流れを、時間を決めて行うもので、これまで4回実施し、150社の応募から最終的に20社との協業に至りました。
一定の成果を挙げた工夫と企業側の問題点について、プログラムのリーダーを務める富士通の徳永奈緒美が説明しました。

富士通株式会社
マーケティング戦略本部戦略企画統括部
シニアディレクター(ベンチャープログラム担当)
徳永 奈緒美

徳永は、成功要因としてまず「時間を決めて集中検討するプロセス整備」を挙げました。協業案件を個別に紹介していた従来のスタイルでは、事業部側も本来の業務に忙殺されて協業に至らないケースが多かったため、複数のスタートアップが一度にプレゼンするピッチコンテストを複数回開催。そして、事業部側の担当者も指名して協業検討までの期間を6ヶ月と区切り、最後に成果報告会を実施して協業の是非を決定するプロセスを整備しました。

また、もう一つの成功要因に「事業マッチングを推進するサポートチームの設置」を挙げました。サポートチームは価値観も行動スタイルも異なる富士通グループの企業とベンチャーの間を取り持つ「緩衝剤」の役割を果たしました。

さらに、徳永はベンチャーと付き合う際の大企業の心得として、「協業で何をしたいのか語らず、リスクばかり指摘するのはNG。ベンチャーと共に未来を語り、リスクは克服することを考える」ことと、「案件を持ち帰って結論を出さず、協業が無理でも理由を言わないのはNG。即決できる人物を担当とし、だめだったら理由を明確に告げて、ベンチャーのリソースを無駄遣いしない」ことを挙げました。

スタートアップとの協業における心得

経済産業省
商務情報政策局
情報処理振興課長
滝澤 豪 氏

滝澤氏は、大企業とスタートアップとの協業について、自らがシリコンバレーに赴任した時の衝撃を交えて話しました。シリコンバレーにはスタートアップを支援するアクセラレーターと呼ばれるビジネスがありますが、多くのアクセラレーターが「日本企業との付き合いを嫌っている」と言います。

大きな理由は、日本企業の決定の遅さです。欧米を始め、アジアでも中国・韓国・台湾の企業は意思決定権者が来て、ミーティングの場で握手して数ヶ月間のアクションプランが決まるのに、日本企業だけが本社にお伺いを立てないと返事ができない状態でした。

もう一つ、日本企業がパートナーとして選ばれない理由として、滝澤氏は「本来、企業とスタートアップの関係は対等ですが、企業側が上から目線で、スタートアップのリソースを考慮しないケースがあること」と指摘しました。

例えば、あるスタートアップが日本企業と資本提携したケースで、日本から大量のリーガルドキュメントが送られてきました。企業側としては秘密保持とか知的財産とか懸念はありますが、従業員数名のスタートアップで処理できるボリュームではありません。リソースも時間軸も全く異なる相手と組むためには、「契約書は数枚ですぐにサインできるような雛形を用意し、意思決定ラインも標準的な契約とは別に用意するような配慮が必要」だと滝澤氏は指摘しました。

早稲田大学大学院
早稲田大学ビジネススクール
准教授
入山 章栄 氏

入山氏は、スタートアップとの協業を担当する企業側の人材について「3つの資質」を挙げました。「1つ目は、スタートアップの人々とビジネスへの情熱を共有できる『夢を持てる人』、2つ目は提携すると企業に技術やノウハウを盗まれるのでは、という懸念を払拭できる『信頼感を醸成できる人』、3つ目は組織内で与えられたタスクを着実にこなすより、『自由度が高い環境で能動的に動くことが得意な人』」です。この、3つ目の資質を持つ人を、入山氏は「変態オヤジ」と呼び、「優秀ではあるのだけど、ちょっとやりすぎて社内で浮いているような人」が大企業には必ずいて、そういう人がうまくやれる可能性が高い、述べました。

その上で、企業がイノベーションを行うため、長期的に改革すべき課題として、評価制度、IR、情報システムの3点を挙げました。まず、「成功か失敗か」を基本とする従来型の評価制度では、失敗を恐れて「知の探索」を躊躇してしまいます。社員が積極的にイノベーションに取り組むためには、例えばGEの「ファストワークス」に代表されるような、失敗を前提とする新しい人事評価制度が必要です。

次に、イノベーションを目指す活動は長期的に企業価値を高める効果がある反面、短期的な利潤を追求するアナリストや機関投資家の支持を得にくく、株価に影響して企業価値の低下につながるリスクがあります。IRを通して、アナリストや機関投資家の支持をどうすれば維持していけるのか、慎重な検討が必要です。

また、経営者は長期ビジョンを考え、それを社員に伝えていくことに集中するため、日常の業務負担を軽減できる情報システムの仕組みが必要です。例えば、経営判断に必要な情報を世界中のどこからでも瞬時に引き出せるように高度に作り込まれた情報システムがあれば、その役割を果たせます。

滝澤氏は「マネジメントだけではイノベーションは起こらない、是非、最近会っていない学生時代の友人などに電話をしてみてください」と、外部との接点を増やし新しい関係、昔の関係を復活させて「知の探求」を個人レベルで行うことで組織を変える土壌となると述べました。

最後に阪井は、まとめとしてMetaArcベンチャープログラムのチームで作ったという、イノベーションに関する次のような4つの川柳を披露し、カンファレンスを締めくくりました。


イノベーション川柳

【企業におけるイノベーションの作り方編】

  • 出る杭を そっと見守る 親ごころ
    (経営幹部は自分の考えを押し付けず、部下が困ったときに手を差し出そう)
  • 儲かるの? その一言が 芽を潰す
    (思わず口に出しただけでプロジェクトを止めてしまう禁句)

【スタートアップとの付き合い方編】

  • どうします? それは厳禁 こうしましょう!
    (受け身はダメ、自分から夢を積極的に語ろう)
  • スピードの 出しすぎ上等 イノベーション
    (イノベーションを起こすならスピード違反と言われるくらいでちょうど良い)

登壇者

パネリスト

経済産業省
商務情報政策局
情報処理振興課長
滝澤 豪 氏

早稲田大学大学院
早稲田大学ビジネススクール
准教授
入山 章栄 氏

富士通株式会社
執行役員常務
CMO
阪井 洋之

モデレーター

株式会社QUANTUM
代表取締役社長兼CEO
高松 充 氏

ゲスト

富士通株式会社
マーケティング戦略本部
ブランド・デザイン戦略統括部
エクスペリエンスデザイン部
本多 達也

富士通株式会社
マーケティング戦略本部戦略企画統括部
シニアディレクター(ベンチャープログラム担当)
徳永 奈緒美