進化を続ける人工知能~「人」と「AI」が拓く未来の可能性を考える~

【富士通フォーラム2016 カンファレンスレポート】

感情を持つパーソナルロボットや車の自動走行など、人工知能(AI)の活用が拡がっている今、AI技術の発展と活用は、社会やビジネス、個人の生活をどのように変えていくのでしょうか。5月19日~20日に東京国際フォーラムで開催した「富士通フォーラム2016」のAIカンファレンスでは、最新のAI研究を紹介するとともに、AIがもたらす可能性について活発な議論が行われました。

実世界に埋め込まれる人工知能(AI)

人工知能の技術開発の現状(日米比較)

第1部では、産業技術総合研究所 人工知能研究センター長の辻井潤一氏が講演を行いました。まず始めに「2015年5月に設立した私たちの研究センターでは、『実世界に埋め込まれるAI』と『人間と協働して問題解決するAI』の研究に取り組んでいます」と紹介し、人工知能の定義について「自律的に判断でき、自分なりにある程度行動ができるもの」と、自らはかなり広くとらえていると話しました。

そして、近年のAIブームは米国型の巨大IT企業が一カ所で巨大データと優れた研究者などのリソースを握り、価値化することで急速にAI研究を進歩させてきたと紹介。しかし、「あらゆる業界・組織がデータを持つようになったため、開いたエコシステムを作りながら連携しデータを価値化していくことが求められています」とAIブームは次のフェーズにきているという状況を示しました。

また、AI技術は社会の様々な分野への適用に及ぶとしながら、「大学や企業の取り組む研究開発(シーズ)と社会・ビジネスへの実用化(ニーズ)のスムーズな流れを作り出していくことが、自らセンター長を務める人工知能研究センターの役割であり、AIの使命です」と述べました。

AI技術の研究開発と実用化の循環を回す

AI研究における日本の「3つの強み」

さらに、「社会の実問題解決にAI技術を適用するのはなかなか難しい面もあります」と課題を示し、その理由に実社会からのデータ取得の難しさと、問題解決を図る上での専門知識が必要であるとした上で「今や、IoT(Internet of Things)やロボティクスなどともAIは綿密に絡み出しています」と述べました。

そのような中、AI研究を進めるためには強いパートナーと組む必要があるとし、「日本はAIの研究を進める上で、良い環境にあると考えられます」とポテンシャルを示しながら日本の強みを3つ挙げました。

1つ目は『おもてなしの心』で、医療、介護、Fintechなど違った環境に置かれた人に最適のサービスを提供するノウハウの応用です。2つ目に『製造業の強さ』で日本のものづくりの強い部分にAIを組み込んでいくことにより、次の製造業のかたちを作ることができます。3つ目は『優れた技術者や科学者などの豊富な人材』であるとし、「ビッグサイエンスの時代には、豊富な人材をベースに、AIを使って研究を加速させていくことが重要です」と説明。「日本の風土にあったAIをどう作っていくかがこれからの大きなテーマです」と述べ講演を締めくくりました。

AIで私たちの仕事や社会はどう変わるのか

続く、第2部のパネルディスカッションは、第1部で講演された辻井氏に加え、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教でありアーティストのスプツニ子!氏と日経BP社執行役員日経ビッグデータ発行人の杉山俊幸氏がパネリストとして登壇。富士通研究所 人工知能研究センター長の岡本青史がモデレータを務め、「AIで何ができるのか? AIで私たちの仕事や社会はどう変わるのか?」をテーマにディスカッションが繰り広げられました。

最初に岡本より、富士通が30年以上にわたって培ってきたAIの技術ブランド『Human Centric AI Zinrai(ジンライ)』を2015年11月に発表。富士通のAIは「ヒトと協調するAI、ヒトを中心としたAI」であり、生活や社会をより豊かなものにしていくことを目指すと説明し、Zinrai発表後に多くのお客様から聞かれるお問い合わせのポイントを今回のパネルディスカッションテーマにしたと説明しました。

富士通のAI技術ブランド「Human Centric AI Zinrai」

富士通が目指すAIの方向性

まず始めに杉山氏はビジネスの観点から、自ら発行人を務める「日経ビッグデータ」と日経新聞が実施した2015年の調査結果を用いて「例えばオフィスの知的労働の一部をAIが代替していくと大手企業の経営者の約6割が見ているとの結果になりました」と説明。AIの進歩により、総合事務員・弁理士など多くの職種が将来的にはコンピュータ化に向かうと見られているが、一方で『創造性、協調性、非定型』業務についてはコンピュータ化が難しいとの、野村総合研究所と英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らとの共同研究結果を紹介し、「AIはどこまでヒトの業務を代替可能か、特に創造的業務については議論が分かれています」と述べました。

生産、物流、建設などの現場では、仕事の一部をAIに代替できると、72%の経営者が回答

続いて、スプツニ子!氏は、「アーティストの視点から・・・」と示しながら「日本ならではのAIの強み」について自らの考えを語りました。

1つ目は『AI×身体性』。これまでのソフトウェア偏重に対し、ロボット技術などハードウェア力、ものづくりの精密さや職人技の強みをAIに移植するというもの。2つ目に『AI×友達感』を挙げ、"ドラえもん"などのように、日本はアメリカより"ロボット=友達"とう感覚が強いように思うした上で、「のろけ話などを聞いてくれる飲み友達みたいなロボットが欲しい」と話しました。3つ目に『AI×モラル(おもてなし)』として、自動運転の例を示しながら「AIがどんな社会でラーニングしたかは非常に重要。日本は世界でもモラルが高いと言われているだけに、社会から"おもてなし"をラーニングさせれば独特のAIが生まれてくるのではないかと思います」と提案しました。

大衆のビッグデータからAIの「モラル」は作れるか

次に、スプツニ子!氏が課題として挙げた、AIの「モラル」を中心に、様々な議論が展開されました。

辻井氏は「今のAIの作り方では、モラルに関するプログラムは人間が作って対応するしか方法がないのです」とテクノロジーの限界を示しました。杉山氏も「そもそも人間も個人レベルにいい意味でモラルにブレがあり、国によって豊かさや幸福感などの価値観の違いもある。究極的なことを言えば"人間はAIにモラルを説けるほど偉いのか"という話にもなりかねません」と課題を問いかけ。スプツニ子!氏も「モラルを大衆のデータから作ることが果たして正しいモラルにつながるのか。チャットの発言を集めたビッグデータから学習したAIが、反モラル的な発言をした事例もすでに生まれています」と難しさを示しました。

この問題について、辻井氏は自動運転のモラルの例を挙げながら、運転時の判断は人によって変わり、判断が機械に切り替わった瞬間に不信感抱くようになるとし、「実は私たちは『人間だから』ということを最後のよりどころに判断していると感じます」と述べました。

さらに、モデレータの岡本より、スプツニ子氏が挙げた日本の強みの一つ「AI×身体性」をとりあげ、AIによる日本のものづくりの可能性を問いかけると、辻井氏は「日本は様々な技術分野に熟練者がいるため、ロボットが技術を習得する環境としては恵まれています」と回答。杉山氏も「AIが熟練技術を再現することによって、日本が世界に輝けるチャンスになるのではないか」と続けました。

AIは社会変革の契機となり、新しいビジネスを創造する

最後に、AIの未来と富士通への期待について各氏からメッセージをいただきました。

「AIによって代替可能な職種は従来と違ったあり方を模索していく必要があります。AIを恐れて抑え込むのではなく、自身を変革するきっかけを与える存在としてAIを見るべきです。富士通はハードウエア、ソリューションのサービス提供を早くから行い、AIの相乗効果を出しやすい素地があります。日本のものづくりの代表として期待したいと思います」(杉山氏)

「子どもが将来、AIによって仕事を奪われないように、今こそ学校教育のあり方を見直すべきでしょう。AIでも解けるような受験、試験制度のままでは、子どもたちの未来はないと思います。期待なんて偉そうですが、いずれAIと楽しく生きていける社会を作ってほしいと思います」(スプツニ子!氏)

「AIは社会変革の契機となります。社会が大きく変わる時に、日本社会のレガシーの大きさが良い方向に効いてくれればいいですが、下手をすると、うまく変化できずに社会としてガラパゴス化してしまう危険性もあります。技術の問題だけではなく、AIによる変革の波に乗り損ねないためにも、日本の社会を設計し直す必要があると考えています。日本の組織は新しい研究をする時にうまくアライアンスが作れなくて、囲い込んでしまいがちです。富士通には単独ですべてをやるのではなく、うまくアライアンスを組めるような体制を作ってもらえると日本の強みが生かせるのではないかと思います」(辻井氏)

モデレータの岡本はこれらの発言を受け、「富士通もAIを一つのキーとして、エコシステムやお客様との共創に取り組んでいきたい」と議論を締めくくりました。

登壇者

国立研究開発法人
産業技術総合研究所
人工知能研究センター 研究センター長
辻井 潤一氏

マサチューセッツ工科大学(MIT)
メディアラボ 助教
アーティスト
スプツニ子!氏

日経BP社
執行役員
日経ビッグデータ発行人
杉山 俊幸氏

株式会社富士通研究所
知識情報処理研究所
人工知能研究センター センター長
岡本 青史